Sessions / オンライン・プレゼンテーション(実践報告 30分)
理系と文系の比較から見えるグローバル人材の資質の違い #1849
大学の国際競争力と国際通用性を高めるためのスーパーグローバル大学創成支援事業(SGUs)が2023年で終わろうとしている。東洋大学でもグローバル人材を育成するために様々な取り組みを展開してきた。その成果は、海外留学・インターンシップ、海外アクティビティ、国際関連プログラムなどへの参加、英語能力、外国語による授業科目の履修から数値で示され、異文化理解といった可視化することが難しい学生のコンピテンシーは、海外留学・研修に参加する学生に限りIntercultural Development Inventory (IDI)で測ってきた。しかし、学生全体のグローバル人材の資質の程度を把握することはできずにいた。そのため国際教育センターは、2020年の秋学期に全学部・全学年に提供している授業、「留学のすすめ」を履修した学生を対象にBelief, Event, and Value Inventory (BEVI)を試験的に実施した。本授業はオンラインによるライブ授業である。 学生にBEVIを学期の開始時と終了時の2回受けてもらい、その1学期間でどのような変化があったのかを調査した。まとまった時間を異文化環境で過ごす海外留学・研修による成果を測る場合とは異なり、この調査から得られる結果は、学生が秋学期間で経験したコロナ禍における生活環境、経済状況、教育環境など全てを反映したコンピテンシーの変化である。 BEVIでは7つの領域の中に含まれる17の尺度から潜在意識の深いコンピテンシーを測り、学生の心理的特性を客観的に明らかにするのだが、本授業を履修した学生のグローバル人材の資質を理系と文系に分けて比較すると、これまで肌感覚で感じていた理系と文系の学生の違いが明瞭に示された。さらに男女別、BEVIが分けたコンピテンシーの低中高のクラスターで比較すると、理系と文系の学生の心理的特性と成長の違いが明らかになった。また、コロナ禍で授業のスタイルが対面から非対面になり、海外留学・研修への参加が困難になった今日の現状において、学生の心理的特性を測ることができたのは有意義であり、また、理系と文系の学生の強みと弱みを客観的指標で捉えることは、今後、各学部の特性を活かしたグローバル人材育成推進教育プログラムの設計が可能となる。
異文化コミュニケーション教科書を編む・書く・使う~教科書はどのようにして作られるのか #1886
異文化コミュニケーション研究・教育・研修に従事する方法には様々なものが考えられる。そのひとつに、異文化コミュニケーションに関してこれまで得られた知見を総合的にまとめ、効果的に提示する、異文化コミュニケーション教育(研修)のための「教科書の作成」がある。本報告では、異文化コミュニケーション関係の書籍出版に携わったことがある報告者が、その経験をまとめ、今後、出版を計画している方々への指針を提示したい。 教育全般のみならず、異文化コミュニケーション教育においても教科書の果たす役割は大きいのだが、残念なことに教科書に関する研究はあまり盛んではない。横溝(2011)は、高校教科書の内容を分析し、コミュニケーション研究との接点の同定を行っている。SIETAR紀要『異文化コミュニケーション』の過去の論文タイトルを検索してみると、異文化コミュニケーション関連の教科書に関する研究・実践報告はなく、教科書に関する情報は書評を通してのみとなっている。 自らの研究に専念し、研究論文を発表し、その後、発表した論文を専門書としてまとめて発表するというパターンが見受けられる一方で、教科書を目的とした書籍の場合、複数の著者が共同執筆したものが多く見受けられる。学会が主導し書籍を発表するケースは前者の場合であり、どうしても教科書出版が体系的に行われる機会は限られてしまう。さらに、研究発表と出版とは近い関係にありながら、個々の研究者にとって出版社は遠い存在であり、どのようにアプローチしたらよいのかもわからず課題となっている。 これらの状況を踏まえ、本実践報告では、教科書の出版作業を企画・執筆・編集・出版・営業・使用・改訂などのプロセスに分けて考えていく。編集者・執筆者の立場から、これまでに報告者が経験した教科書出版に関して、各プロセスにおいてどのような作業が発生するのか、何に気をつけなければいけないのか、などについて報告を行い、異文化コミュニケーション研究者のために、教科書作成に取り組みやすい環境作りに寄与することを狙いとする。
参考文献 横溝彰彦(2011)「高校と大学におけるコミュニケーション(学)教育の連続性 ―『高等学校 改訂版 現代社会』第一学習社、2006」Kyushu Communication Studies, Vol.9, 2011, pp. 54-56.
オンライン国際協働型授業(ZOOM)における外国語を通しての日米学生の異文化コミュニケーション能力 #1887
発表では2020年秋学期に日本のA 大学とアメリカのV 大学で行ったonline zoomでの2回の交流受業の日米異文化理解を受業目的にしたプロジェクトの実践報告である。本プロジェクトの目的は日本語を学習する米国の大学生(中国人留学生10、ベトナム人1、韓国人1、アメリカ人7)とInternet Englishを履修する日本の大学生(17名)が、それぞれ外国語を使用して、日米文化を理解し、異文化コミュニケーション能力の向上を意図とした授業での学びである。バイラム(Byram, 1987,1997; Byram et.al.,2001)は異文化教育の目標を「異文化で発信できる人、異文化間で話が出来る人」の教育であるとし、それは「異文化コミュニケーション能力の獲得」であると述べている。Byramは「異文化能力」と「異文化コミュニケーション能力」を区別している。「異文化能力」は母語で多文化の人々とやりとりする能力、異文化コミュニケーション能力は外国語で他文化の人とやりとりする能力だと定義している。本発表では研究課題として1)学生はonline (zoom)でスピーチすることで何を学んだか。2)外国語でプレゼンテーションすることでどのような気づきがあったか。3)プレゼンテーション及びそれに向けての日米の学生との話し合いのプロセスで日米文化の相違点はどのようなことかを学んだか。とした。学生のプレゼンテーションのテーマは自分の生まれた州、サンクスギビング、アメリカの食生活、アメリカの学生生活、ハロイン、上海の食事など多岐に渡った。一方日本の大学生は、世界的に影響を及ぼしているコロナ禍を軸にコロナ禍と日本の教育、コロナ渦と日本社会などのテーマで問題解決型学習をし、英語プレゼンテーションと行い、英語で意見交換を行なった。 このパンデミックの中のリモート授業で、日米の学生がお互いにzoomでのコミュニケーションを外国語で行った授業の学生の体験報告の分析、インストラクターの観察を中心に授業の実践報告を行う。
対面授業かオンライン授業か:コミュニケーション関連の授業履修者にとっての効果的な授業とは #1838
文科省「令和3年度前期の大学等における授業の実施方針に関する調査結果」によると、令和3年3月の時点では全体の97%(1064校中1036校)が前期授業の半分以上を対面授業で実施するとしていた。その後、4月25日からの緊急事態宣言以降は方針を変えた大学もあると考えられるが、基本的には文部科学省及び大学側は対面授業を重視していると考えられる。 しかし学生の視点からみるとどのような授業形態が望ましく、それがどのような教育方法と関連しているのかを調べるために、コミュニケーション関連の授業を履修している学生340名に対してアンケート調査を行った。 その結果は、①アクティブラーニングを伴うオンライン授業であれば、通常の対面授業と同様に効果的であると評価する学生が6割を超えていた。グループワークなどの協働作業による学習活動が好評価に繋がっているようだ。②全員がオンラインで参加する授業とハイブリッド授業を比べると、学生はハイブリッド授業よりも全員がオンラインで参加する授業の方が学びやすいと答えている。全員が同じ条件で参加している方がグループワークがしやすかったとのことである。③オンライン授業は一般的には孤独であるとか友達ができないと言われているが、グループ活動のあるアクティブラーニング型の授業であれば、クラスの学生数に関係なく半数以上の学生がオンライン授業でも実際に会ったり連絡を取り合って話せる友人ができたと答えている。その他の学生も知り合い以上の人間関係が形成できたと回答している。④オンライン授業での技術的操作に関わる問題ではWiFi環境の不安定さが一番の問題として挙げられている。⑤学生が学習効果があると報告している授業形態については、オンライン、対面とは関係なく、様々な活動のある授業が支持されている。 以上のような結果から、学生が好ましいと考える学習環境は授業形態がオンラインか対面かということではなく、アクティブラーニングによって様々な学習活動が行われ、学生同士の双方向性のコミュニケーションが活発に行われる授業であることが分かった。 この調査を基にオンライン授業におけるアクティブラーニングの授業活動に関する報告を行う。
キャリア選択における21世紀型スキルに関する海外留学のインパクト #1854
本研究は、海外留学が、21世紀型のスキルを身に着けることにいかに貢献し、またそれらが学生のキャリア選択においてどのように影響するかを考察したものである。 留学の効果に関する研究は、学生の英語能力の向上と異文化感受性の発達に寄与している報告も多くなされている(Anderson, et al., 2006; Hernández & Alonso-Marks, 2018; Nishio, Futagami, & Miyazaki, 2018)。留学で得た経験が大学生のキャリアやその後の生活に及ぼす効果について大規模調査を行い測定している研究もある(横田・太田・新見, 2018)。本発表では、Farrugia and Sanger (2017)が行った21世紀型スキルとキャリアに関して留学の効果を検証した論文をもとに、2021年3月卒業の私立大学外国語学部4年生25名に対して実施したアンケートとインタビュー調査の結果を考察する。本学生はアメリカなどへのセメスター留学、または、短期の海外フィールドワークを行った学生である。21世紀型スキルの特徴としては、コミュニケーションスキルや、問題解決力、コンピュータなどのスキルがあげられ、15項目の質問項目に対して、「非常にそう思う」から「まったくそう思わない」の5段階のリカート法で回答させた。質問に対し、「非常に・ややそう思う」という高い評価の項目は次のとおりである。「異文化への適応力」と「新しい経験や学びが増える」は100%の回答であり、「コミュニケーションスキルを伸ばすことができた」は88%、「英語での4技能の伸び」は82%、「問題解決力」に関しては80%である。一方、「コンピュータやソフトを使いこなせる」という項目だけが非常に低く8%であった。留学の経験がキャリア選択や内定先の仕事に生かせるかどうかについての記述やインタビューの回答では、異文化体験や多角的な見方、人間関係の構築など非常にポジティブに影響するとの回答であった。以上のことから、ICTなどのスキルを除き、留学が21世紀型のスキルを伸ばしキャリア選択にも有効に影響していることが明らかにされた。
異文化シミュレーションのオンライン化のプロセスと実施について #1860
かつて、異文化コミュニケーション学会の協力をもとに異文化シミュレーション「エコトノス」の日本語短縮版が作成された。対面で4時間程度で実施できるため、過去20年に渡って大学や企業でも実施されてきた。 昨年、これをオンライン化するにあたって、Zoomの専門家と異文化コミュニケーションの専門家で協同してカリキュラムデザインを行った。このプロセスと実施の過程を明示する。オンライン化のプロセスでは学習目的を共有したうえで、それぞれの専門家の観点から対面で行われる学習活動で必要となる行動とオンライン操作を関連づけたうえで、代替可能なオンラインサービスの選定が必要になる。また、複数のファシリテーターとITサポーターとの連携によって実施可能なレベルになった。 さらに、オンラインでの「エコトノス」に参加した異文化コミュニケーションの専門家によるフォーカスグループインタビュー調査をしたところ、オンライン化には懐疑的であったが、実際体験してみると対面でのプログラム並みの効果があることが確認された。また、非言語コミュニケーションの制約から言語コミュニケーションの比重がたかまることなどが言及された。さらに、シミュレーションを遂行するための効果的なオンライン機能や操作テクニック、その導入方法の重要性が指摘された。また、Zoomというプラットフォームが内包する文化と日本の企業文化についての異なりが浮上した。 こうした様々な声を取り入れて、オンラインでの「エコトノス」は一般企業の研修にも提供できるプログラムになった。企業研修での事前事後アンケートでは、オンラインであっても異文化シミュレーションの体験が参加者の異文化感受性を高められる可能性が示唆された。 このプロセスが可能になったのは、異文化コミュニケーションの教育担当者やICTの技術者のみならず、異文化コミュニケーション学会の会員、企業の研修担当者など異なる専門家、異なる業種の人々の協力によるところが大きい。